










改修前



文化堂ビル再生プロジェクト
千葉中央駅前近くの繁華街に建つ、鉄筋コンクリート造3階建ての商業ビルの改修プロジェクトである。既存建物は、文房具店とその事務所のために計画され1960年に竣工した。「文化堂」とはその時の商店の名である。その後、1階はコンビニエンスストア、2・3階は、飲食店舗とそのオフィス(計画時は空き店舗)として使用されていた。立地等を考えれば建替えを検討することも考えられるが、既存建物を保存し、活用していきたいという現オーナーの熱意もあり建物の再生を試みることになった。
不動産企画・管理を手掛けるオーナーを中心に、アートディレクター、施工者を含めた我々再生チームが目指したものは、変わりゆく街の記憶を建築の保存というかたちで継承し、「時をこえた再会の場」となるような新たな能動性をつくることである。
建築上の改修に必要な耐震化、外装の耐久性向上、2・3階への新たなテナント誘致のための適法化といった技術的な課題をクリアしながら、当たり前のようにそこにあり続ける姿をつくりたい。イメージを一新するために新たな意匠を付加するのではなく、既にある建物の佇まいを大事にしながら、街の景観的なシンボルとなるような建築のあり方を探った。
1階は、当初の意匠から改変されていたが、東側の道路に面した部分に設備機器が置かれ、決して見栄えのいいものではなかった。そこで3階屋上部分に設備スペースを設け、設備機器を移動させた。サッシについても開口を大きくし、開放感と清潔感を向上させた。建築の顔となる建物のコーナー部分を小さなギャラリースペースとしたことは、「美術館通り」と名付けられた街路に期待されるこれからの街の姿に呼応していくためである。このアイデアは、建物全体に一体感をもたらす意味でも大きな効果があった。
外装については、既存の塗装全てを剥がし、塗装下に張られていた当初からのレンガ風タイルも脱落の恐れがあることから撤去した。
建物の耐久性を向上させるためには、鉄筋コンクリート壁への水の浸入を防ぐことが重要である。この改修ではコンクリート壁に中性化を抑制する含浸剤を塗布し、ポリマーセメントによる下地調整を施した上で、仕上材を左官塗りすることとした。
内部については、当初の意匠が残されている部分は少ない。階段部分にあった手摺や人造大理石研ぎ出しの造作は、建物の歴史を感じさせる要素として残すようにした。
繁華街にとって夜の景観はその街の印象を左右すると言っても過言ではない。夜の街にこの建物を象徴的に浮かび上がらせるために、
周囲の街灯りに対抗するのではない、暖かい色味の穏やかな光によってライトアップさせた。「再会の場」を彩る光となるように。
この建物は、ある時代に顕著な建築デザインの特徴を表したり、新しい技術を用いたような、謂わば「歴史的建造物」と呼べるものではないだろう。高度成長期へ向かう中で数多く造られていった建物の一つに過ぎないかもしれない。しかし、この街を訪れる人々にとって、この場所が懐かしさを持った「再会の場」となり、いつか人々にとっての文化財となる日を夢見たいと思うのだ。
|所在地:千葉市中央区富士見2-23-7|RC造3階建て|敷地面積:194.38㎡|建築面積:166.65㎡|延床面積:425.80㎡|商業地域|
|竣工年:2024年|不動産・企画:サステナデザイン株式会社,株式会社高品ハウジング|施工:松栄建設株式会社|
|耐震補強設計・施工:株式会社キーマン|アートディレクション:川島康太郎|撮影:繁田諭|