
HOTEL VMG VILLA KYOTO
歴史的建造物を活かすリノベーション
本プロジェクトは、京都市東山区・高台寺近くに建つ近代和風建築(数寄屋建築)を、一棟貸しの宿泊施設として再生する改修計画である。設計は、友人の建築家・森吉直剛氏を中心とするチームによって行われ、私もその一員として参加する貴重な機会を得た。
対象となる建築物は、伝統的建造物群保存地区に位置し、東山の町並み景観を構成する重要な文化財である。小屋裏に残されていた御幣の記録から、大正9年の上棟であることが判明し、当時の建築主は「大阪一の料亭」の主人であり、茶人としても名を残す人物であったことが文献調査によって明らかとなった。高橋箒庵による『大正茶道記』にも、本建物で催された茶会の様子が記されており、かつては茶事のための別邸として使われていたと推察される。建築の施工は、祇園の茶屋建築を多く手がけた数寄屋大工によるもので、随所に洗練された意匠が施されていた。
建物は、南北に細長い敷地の西側に建ち、東側は庭とされ、各室の大開口からはその庭を望むことができる。縁側を介さず、障子を開けると直ちに庭とつながる構成は、茶室的な感覚を伴い、雨音や木々の香りまでも身近に感じることができる。
リノベーションに際しては、可能な限り既存の建物の意匠を保存することを心がけた。宿泊施設としての設備機器は造作家具に組み込むことで、数寄屋建築特有の簡素で静謐な佇まいを損なわないように配置している。また、天井の意匠を際立たせるため、ブラインドボックス内に間接照明を組み込み、空間全体に柔らかな光を届ける工夫も行っている。
歴史的価値を持つ建築物を活用し、現代に継承していくことは、地域の記憶や景観の保全においてますます重要な役割を担っていく。本プロジェクトに携わることができたことに深く感謝するとともに、この経験を今後のヘリテージマネージャーとしての活動にも活かしていきたい。
□プロジェクト設計チーム
森吉直剛/森吉直剛アトリエ合同会社
増谷高根/増谷高根建築研究室
山崎裕史/ヤマサキアトリエ

|所在地:京都市東山区|木造・2階建て|敷地面積:473㎡|延床面積:198㎡(改修エリア)|
|施工:大村工務店|FFEデザイン:株式会社ワサビ|竣工年:2024年|撮影:繁田諭|