― 私のリノベーション手法 ①

日本の所謂「マンション」と呼ばれる一般的な集合住宅は、そのほとんどが共用廊下側に玄関を挟んで寝室が2つ並び、住戸の中間に洗面・浴室といった水廻りが配置され、日当たりのいい側が、バルコニーに面したLDKとなっています。これから紹介するマンションのリノベーションもそのような2LDKの間取りの物件でした。
この案件での最大のテーマは、寝室の扱いです。友人でもある施主さんは、一緒に住んでいた母親が亡くなったために一人暮らし。共用廊下側に面した暗く閉塞感のある寝室が不満でした。そこで思い切って寝室の壁を取り払い、リビングと繋がったワンルームを考えました。


緩やかに仕切るL字型の腰壁
寝室は家の中でもプライベートな空間です。ワンルームの中でこの空間の領域分けの働きをするのが、L字型の腰壁です。L字型の内側にベッドを配置すると、リビングやダイニングからベッドは見えません。腰壁の高さは120cm。ベッドスペース側に十分な光をもたらすと同時に、ベッドから立ち上がった時にはリビング、バルコニー方向へ視界が広がります。お施主さんにもこの開放感をとても喜んでいただきました。

内側のベッドスペースは、建築仕上の素材感を最も身近に感じる場所でもあります。そこでL字型の腰壁だけは、素材のあたたかな質感を出すために顔料で色付けした漆喰材の左官仕上げとし、手が触れることも多い小口の部分はオーク材の挽き板を薄く繊細に見えるようにしながら廻しました。
共用廊下側の窓側はウォークイン・クローゼットになっています。クローゼットだからと言って扉を付けて完全に閉じてしまうのではなく、ここでもL字型の間仕切り壁(天井まで達しない)で仕切るのみとし、風通しをよくしました。



T字型壁の間仕切り
類似した他の事例も紹介します。これは2DKのアパートの一室を改装した案件です。改装前の間取りは、田の字型プランといって、日本の民家の間取りから引き継がれ、高度成長期の団地に応用されたものと同じような形になっていました。民家というと伝統的な感じで少々聞こえがよいですが、民家のような大きな広がりがあるわけではなく、6畳の部屋が相互に繋がっているだけのものです。ではこの間取りをリセットしてもっと広がりを感じられる間仕切りの方法は考えられないか? 床面積35㎡にも満たない小さな空間を、一人ないしは二人で住むのに機能的でより快適なものとなるような間仕切の方法を考えました。



ここでの提案は、T字型の間仕切り壁を中央付近に配置するというシンプルなものです。先程の事例ではL字型で一つの入り隅空間でしたが、こちらはT字型で2つの入り隅空間が作られ、一つはリビングスペースになり、もう一つはベッドスペースになります。平面図のように大きな家具が中心に集まり、人の動きはその外側になるわけです。改装前の田の字型プランとは全く反対の、奥行き感のある空間が連続する住居となりました。




2つの事例に共通することは、LないしはT字型の間仕切りによって作られる入り隅部分のコンパクトさと大きくなる動線の対称性です。すなわち静と動の空間が同時に生まれ、全体として生き生きとした感じが作られるのです。
これらは私のリノベーション手法の一つですが、参考になるのではないかと思います。
本八幡のリノベーション
設計 :ヤマサキアトリエ一級建築士事務所
施工 :株式会社丸喜齊藤組
改装床面積:51.15 ㎡
パストラーレ104号室
設計 :ヤマサキアトリエ一級建築士事務所
施工 :株式会社牛久工務店
改装床面積:32.78 ㎡
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