• 山﨑裕史

リノベーションという選択


イマケンビルのリノベーションが竣工してから2年近くが経ちました。これまで1階の喫茶ランドリーさんなど数々のメディアに取り上げていただいていますが、ビル全体のリノベーションについてその経緯や企画・設計者として考えたことなど改めて紹介しておきたいと思います。

竣工後のイマケンビル

築56年のビルを店舗付き賃貸マンションとして再生する



旧「今健ビル」

当初このビルを取得されたオーナーさんからの依頼は、建替えをして収益物件をつくるというものでした。私たちヤマサキアトリエと創造系不動産のプロジェクトチームは、複数の規模の計画案とキャッシュフローを作成し、オーナーとの協議を重ねました。その中に新築ではなく、リノベーションによる再生案も盛り込みました。

この建物は、一戸建ての住宅として、確認申請を受けています。賃貸マンションなどにするには用途変更という手続きを経なければなりません。この手続きは通常とてもハードルが高く(最近条件の緩和などが施行された)、多くの空き物件が再生という道を断念して壊されています。このビルに関しては、56年前の確認申請書類や検査済証を発見することにより、用途変更の道が開けました。

なぜリノベーションを進めたのか? 

私は築50年を超えるような物件は、それだけで既に価値があると思っています。現代の賃貸物件にはないレトロな佇まいは、時間の中でしか現れないからです。融資を行う金融機関は、鉄筋コンクリート造の建物の減価償却期間が47年だから、建物に価値がないと評価する向きもありますが、それと実際の建物の耐用年数とは関係がありません。この建物の場合、適切な耐震補強を施すことで、この先数十年は賃貸物件として使えると判断しました。


周辺の街並み

イマケンビルが建つ墨田区千歳は、町工場や倉庫が古くから立ち並ぶ下町です。

近年はそれらがファミリー・単身者向けの賃貸マンションなどに急速に建て替わりつつあります。新しい住人が増えて、人口は上がっていますが、通りは閑散として、歩いて見えるものはマンションの立派なエントランスと駐車場ばかり、、、


1階「喫茶ランドリー」写真:株式会社グランドレベル

この付近の人々と共に時を刻んできた築50年以上の建物があるのだから、新築ではなく、リノベーションによって建物の違ったあり方を示したい。1階を店舗にしたいとオーナーに提案したのもそのためです。人気ないところで店舗など無謀と思われがちですが、だからこそ、中が見通せるカフェのようなものがそこにできれば、人々が行き交う、止まり木のような場所が新たに生まれるのではないかと期待しました。

実際、「喫茶ランドリー」という素晴らしい場所ができ、期待以上のことを株式会社グランドレベルのお二人はもたらしてくれました。


快適な時間を過ごせる個性的な空間作り


素材感が印象的な住戸内部

2・3階平面図

デザインで重要視したのは、2・3階の賃貸住宅の居住性です。

まず南側にある既存の横長窓を生かすような間取りを考え、引戸で仕切れるワンルーム(1LDK)の南側住戸と、東西の開口部を生かした1LDKの北側住戸の2タイプとしました。ともに階高の大きさを生かした天井高が面積以上の広がりを感じさせますが、水廻り部分の天井高は敢えて低く抑えて、メリハリを付けていることが高さをより強調しています。

また、外部に面さない梁のみを荒々しいコンクリート躯体剥き出しにして、さながら彫刻のように見せているのも築年数を生かした特徴となっています。

素材感のある空間が内見者の心を捉える

レトロさを生かした躯体現しの表現もそうですが、それとは対照的にナチュラルな木の優しさを内装の基調としました。コストを抑えるためにロシアンバーチ合板という白樺を積層した素材を利用していますが、幅広の床フローリング、同じ合板を加工した材による建具枠や棚など、材料の種類を極力絞りながらも、やわらかな素材感があふれる空間は、内見に訪れた方々の心を捉えました。


入居中の様子

分譲・賃貸を問わず多くの住宅が、作り手の手間のかからないパーツで構成されています。それらは木に見せかけたプリントによる工場加工材料で、施工が容易で、経年変化も少ないのでクレームになりにくい、作る側にとって都合のいい材料です。しかしそれでは自然素材が持つ深みが表現されません。実は多くの人がそのことに気づいており、残念に思っているのではないでしょうか?

イマケンビルの入居競争率が高いのは、そんなユーザーに潜在した住欲求に答えているからだと思います。たとえば、素足で歩いて気持ちがいいというような。

生活に彩りを与える小さな工夫

SOHO利用にも最適

賃貸物件の入居を決めるポイントは、立地・価格・間取り(広さ)・設備の新しさ・防犯性などが、一般的に考えられていると思いますが、そのような不動産情報に掲載されるもの以外が大切だと思っています。先に述べた素材感もそうですが、イマケンビルではカーテンボックスに強度を持たせ、棚として使えるようにしたり、トイレにも飾り棚を設けたりしています。それらは入居者がそれぞれ自分の空間を演出できる仕掛けです。ただ寝るためではなく、少しでも住生活を文化的に楽しんでほしい。

キッチンも1LDKの間取りとしては大きめなものを入れていますが、入居中の皆さんからは料理が楽しくなると好評です。


賃貸物件の情報収集の方法も多様化してきました。中身のしっかりした物件しか選ばれない時代ももうすぐに来るかもしれません。



古い物件の有効活用や賃貸物件の相談など、お気軽にお問い合わせください。

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イマケンビル

住所:東京都墨田区

床面積:350.62㎡

構造規模:鉄筋コンクリート造3階建て

企画・設計監理:ヤマサキアトリエ一級建築士事務所 山崎裕史

耐震補強設計:大賀建築構造設計事務所 大賀成典

不動産コンサルティング:創造系不動産 高橋寿太郎 野々垣賢人 関本麗子

施 工: 丸喜 株式会社 齋藤組、ルーヴィス

1階店舗コンサルティング:株式会社グランドレベル 田中元子+大西正紀

1階店舗設計監理:ブルースタジオ+石井大吾デザイン室一級建築士事務所 石井大吾


受賞:「住まいのリフォームコンクール」優秀賞

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